それは、ひとつだけ願いが叶うという。
その願いが困難であればあるほど…
その代償が身に降りかかるという。
それでも俺は、アイツに近付きたかった。
過激派の攘夷浪士を斬った時だった。
中の一人が、倒れる間際に意地の攻撃。
俺にふりかけられた、真っ白い粉。
「貴様の願いが叶う・・・対象に向かって3度念じろ」
屍になったその横で、理解もできず、だた呆然と立ち尽くした。
医者にも診てもらったが、何の異常もねェ。
痛くも痒くもねェ。
あの時の攘夷志士。
敵である俺の願いを叶えてやろうとなんか思うはずがねェ。
絶対よくねェ事が起こるに決まってる。
一抹の不安を覚えたが、それも束の間。
慌しい日常の中に紛れて消えていった。
「・・・・・・なァ、トシ、聞いてる?」
途端に、真っ青な空をバックに、近藤さんのどアップが視野を独占。
あァ…
見回りに出たトコだったっけな。
え?
「あァ?な、何だ?」
「もう!聞いてなかっただろ!!」
むぅ、と膨れる近藤さん。
申し訳ねェが、正直なところ一切聞いてなかった。
「悪ィ・・・・・」
「だからな?今日は一日遊んで来い!飲み会するから9時には戻れよ?」
は?
何言ってんだ?
「え・・・・でも・・・」
「でも、じゃねェ!じゃあな!」
ニカっと笑って、立ち去った近藤さん。
取り残された俺。
意味わかんねェ・・・
こんな隊服のまま、どこでどう遊べってんだ。
勤務中の真選組だ…って、場の雰囲気悪くするだけじゃねェかよ。
どこ行ったって、これじゃあビビッて誰も寄りつかねェ。
寄って来るのなんざ、攘夷のゴロツキぐらいだろ。
だいたい、なんで今日?
俺、休暇なんか頼んでねェぞ?
「貴様の願いが叶う・・・対象に向かって3度念じろ」
なぜか、ふと、あの言葉が浮かんだ。
「ちょっと試してやろうじゃねェの」
浮ついたガキみてェな感覚が、ズンと背筋を突いた。
何を血迷ったか、熱くなる身体。
ある男の元へ、既に俺の足は進んでいた。