そして小十郎の反対も押し切って来た、甲斐。


そこには猿飛の姿はもちろん、気配さえなかった。
幸村がここにいるというのに。

武田のオッサンはやはり来たかとでも言うように、一瞬だけ俺に目配せした。
ほんの一瞬だけ。
それでもすべてを見破られたような、居た堪れない気持ちになる。

 

 

 

「政宗殿、今回はどのような…」


客間に通された俺に、初めて幸村が口を開いた。
そう言えば、手紙持ってきた時からいつもの覇気がねェとは思ってたんだ。
原因はアイツだろう。

「Ah…」

おそらく書の内容は知らされてないんだろうな。
いきなり上田について来ると言い出した俺に度肝抜かれてるみてェだ。


「ちょっと、猿飛に…な」

「佐助にですか?」
「あァ」

俺が座ったのを見届けて、俺の前に腰を下ろす。

 


「あの、遠路遥々恐縮でござるが…」

 

それってやっぱり…


「もしかして、猿飛…いねェのか?」

「左様にございます」

 

 


なんてこった。

遅かったか。

 

 

 

 

 

 


「某、先日お館様と城下へ参ったのですが…」

 


「Ah…」


「その頃から佐助の様子がおかしくなって、任務もなしに姿を消すことが多くなってきたのでござります」
「・・・・・」
「ちょうど屋敷にいる時に問い質してもいつものあの調子で、お館様もお困りのご様子…!!」
「・・・・・」
「某、佐助にもしものことが「悪かった・・・・・」

「?」

 

「悪かったよ…」

幸村のどんぐり目がさらに丸くなる。

「ぇ、あ、いや!そんな!政宗殿?!!」
「猿飛に何かあったら…そりゃ俺のせいだ」
「政宗、殿…?」
「猿飛のメンツにかけて、何があったかは後で話す…とりあえず俺を猿飛のいそうな場所に連れて行ってくれ」
「し、しかし、今佐助がどこにいるのか、忍隊の者達でもわかりかねている状態ゆえ…」
「アイツに部屋はあるか?」
 
「し、承知…」

 

 

 

俺は幸村の屋敷の離れに連れて行かれ、どうやらここが猿飛の部屋あたりらしい。
あんな、どこからともなく現れる奴にも寝床なんてモンがあるのかと、一人想像して笑っちまった。

俺は適当に湯浴みを済ませ、着流しのまま猿飛の気配を待った。

もう日も暮れた。
今夜もなかなか月がデカい、急ぎの仕事でもねェ限りそろそろ戻ってくる頃だろ。
こんな月明かりじゃ、忍は仕事にもなりゃしねェ。


おそらく外から直接戻ってくるであろう猿飛を、軒下でひたすら待った。

 

 

 


死んじゃいねェ。
勘でわかる。
でも、幸村にあそこまで言わせるなんざ、隠しきれねェほどの状態なんだろう。

猿飛としたことが、よほどの状況なのか。

 

どうか無事でいてくれよ。
でなきゃ、幸村があのままだ。
運命の好敵手があれじゃ、俺の名折れも甚だしい。

とっとと戻ってきて、また俺に暴言のひとつでも吐きつけてみやがれ!
田舎のボンボンがって、女子みてェに生っ白いって、刀6本も提げる臆病者がって…
また面と向かって言ってくれよ。

 

 

「猿飛…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「なァに?竜の旦那ww」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背筋が凍りついた。

 

 

 

あまりの衝撃に、驚くことさえ忘れた。

 

 

 

 

 

 

 


「来てたんだ…お出迎えできなくてごめんね?」

「ァ、アンタ・・・・・」
「ん?何?」
「どんだけ心配したと思って…」
「え?…心配したって、俺様のことを?アンタが?」
「ぁ、いや、俺じゃなくて…」


猿飛は相変わらずの調子だった。
特に痩せた風もなく、声もそのまま。
向かってくる歩みもちゃんとしてるじゃねェか。

バカみてェ。

 


「うん…ありがとう」

そう言って猿飛は、微動だにしねェ俺を抱きしめた。
あの猿飛とは思えねェ、優しい包容だった。

「違うって言ってんだろ」

それでも俺の口は素直になれねェ。

「俺様、アンタがこの部屋にいてくれただけで感謝するよ」
「・・・・・・」
「アンタに言葉なんて期待してない…ここで俺様の名前を呼んでくれて、嬉しかった…」

 

「俺様…結構頑張ったんだよ?」

至近距離にあった猿飛の首筋。

「でも、もう…守るのも逃げるのも限界かも…」

 

装束でほとんど肌は晒されていねェ、そのほんの隙間。

 

 

 

 


赤い鬱血痕。

 

 

 

とにかく頭に血が昇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ…ッ、だ、旦那?!!」


小気味いい音を立てて庭先に転がった、猿飛の鉢金。
気付いたら口づけてた。

その痕を塗替えるように、首筋に吸い付いた。


そうはさせねェ。
猿飛を檻の中に引き摺り込むなんざ。
勝手な片想いで命散らすなんざ。


「絶対ェ渡さねェ…」

コイツはもっと幸村を教育して強くして、俺の好敵手として相応しい男であり続けるように指南しなきゃならねェんだ。
団子の食い過ぎで太ったりしねェように。
武田のオッサンに夢中になりすぎて暴走しねェように。
常に幸村の傍らで笑ってなきゃならねェんだ。

これからももっと、ずっとずっと。


「旦那、大丈夫だよ…貞操は守っ「Shut up!!!!!!!!!!!」

それをこんな風に茶化すコイツも腹が立つ。
本当は不安で堪らねェくせに。
強くて能のある自分が珍しく限界を感じてることが怖ェくせに。

「アンタがどこで誰とヤろうが、知ったこっちゃねェ」
「・・・・」
「ただ、俺はアンタのそんなツラ見たくねェ」

「旦…ッ…」

 


何かに追われるようだった。

 

 

 

 

 


こうでもしねェと、猿飛が消えて行っちまいそうだったから。

一瞬戸惑った。
生憎俺にはこういう趣味ねェモンで。

 


それでも、頭で理解するより早く、俺は猿飛にキスしてた。

 

「武田のオッサンは全部わかってる、幸村も尋常じゃねェって心配してる」
「…そう」
「これ以上ここを空けるな」
「そうしたいのはヤマヤマなんだけど…」
「屁理屈は聞かねェ、俺が言ってやる…あの日アンタが提案したようにな」
「ェ、でも…相手は愛欲のプロだよ?ホントにそういう仲かどうかなんてすぐバレちゃうって」

「…Shit!!!!」

 


意地らしかった。

あんな俺様な猿飛も、やっぱり忍なんだと。
結局は主君のための道具という意識なんだと。

 

「アンタのことは大っ嫌いだけどな!そうやっていなくなるのを俺は黙って見過ごせねェんだよ!!」

呆れたような猿飛を張り倒し、馬乗りになって胸倉を掴む。


「旦…那…?」
「幸村はどうなるんだよ」

「・・・・・」


鉢金の取れたその唇に触れてみると、ゾッとするような感覚が胸元に湧いた。
それが何なのか考える前に俺の髪に触れてきた猿飛の手。
その暖かさに何もかもが滅茶苦茶になっちまった。


「猿飛…」

 

そう…

 

俺の中の何もかもが、ぐちゃぐちゃに狂っちまったんだ。

 

 

 

 

 

だって、わからなかったんだ。

性格や生い立ちを熟知してるわけでもねェ。
仲良くもなく好きでもねェ。
そんな猿飛といかにリアルっぽく恋人ごっこするか…なんて。
プロの前でド素人が猿芝居やらかそうってんだ。
全身に鳥肌立てながら肩を抱き合ってみたところで、騙せるはずもねェ。
一生かかっても惚れられそうにねェ相手にたった数日で堕ちろなんて、到底無理な話だ。

 

それなら形から入るまで。

どうせ気持ちなんざお互いにありゃしねェ。
それどころか、隙あらばいがみ合う犬猿の仲。
そんなどうしようもねェ部分を何とかしようとするよりも、それさえわからなくなるぐらいのモンで覆っちまえばいい話。
惚れたモン同士を真似してみるってンなら、その男娼と同じ土俵に上がればいい…

 

 

 

 

 

子作りでもヤってみりゃイイんじゃねェの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


生憎か幸いか、野郎同士。


ヤっちまう抵抗は山ほどあるが、間違いも起きねェ。
何とか勃たせちまえば、あとはどうにでもなる。
アイツも不能じゃねェはずだ。

いや、でも忍って生き物はそこンところどうなんだろな。
動物的な部分全部削いじまったようなもんだろ?
色目使って情報収集もするだろうが、アイツは戦忍。


もしかして童貞だったりしてな。
ちょっとからかってやるのも面白ェじゃねェか?


好都合なことに、猿飛ってやつは黙ってじっとしてりゃ不器量でもねェ。

忍とあって体も極力軽くキープされてる。
顔の作りが繊細で綺麗で、体も華奢とあっちゃ、頑張れば女子に見えなくも…

 

 

いや、見えねェか。

 

それでも、これ以外に方法が見つからなかったんだ。
本当に猿飛のことを想うやつなら、たとえば幸村だったら、もっと違う手段を取るだろうな。

そもそも、アイツだって俺に頼んだ時点で多少のリスクは覚悟してるはずだ。
この俺が協力してること自体、感謝して欲しいもんだぜ。

 

 

 


「ちょ、と…旦那?」


目を閉じてひたすら「愛情」を想像した。

俺は恋愛したことがねェ。
だから想像した。


「喋るんじゃねェ…萎える」

「ェ…」


俺は猿飛が好きで好きで仕方ねェ。
コイツのすべてが欲しくて、昼夜猿飛のことばかり考えてる。
もう狂っちまいそうなほど惚れてるんだ。

その猿飛がやっと手に入る。
手の届かねェ存在だった相手と抱き合える。


「黙ってろ」

「何、ちょっと…」
「アンタに惚れた時の想像してんだ、実際のアンタが見えると幻滅すんだろが」
「ヒ、ヒド!!」
「ぅるっせェ!だったら何だ?アンタ素面で俺相手に勃つのかよ?!ァ?!!」
「え?勃つよ?」

「?!」

「??え、そりゃ、いくらなんでも相手選んでますから」


待て待て…
コイツいつからソッチ系になったんだ?
いや、そういう奴だったのか??
やっぱり戦忍といえど、そういう任務にも就いてたりすんのかよ。

「ちょっと待て、忍ってのァそこらへんどうしてんだよ」
「ん?性欲的なこと?」
「あァ」
「俺様ぐらいになれば、完璧に自由自在」


Ah…
なるほどな。
自由自在ってか。
抑制もできりゃ、発情させるのもお手の物。

そりゃ、俺でも誰でも勃つわな。

 

 

「Hum…」

しかも、対応も早ェ。
跨ってる俺の内腿に猿飛のチンポがゴリゴリ当たってきやがる。
さっきまでは何ともなかったのに。

焦ったような口調で俺を引き剥がそうとしてるが、その表情は相変わらずだ。
焦ってるようで、まったくの平常心。
股間こんなにしてるとは言え、機械的に起動してるだけだ。

無関心とさえ思えるそのツラに、ちょっと腹が立った。

俺がここまでしてやってるってのに…


「わかった…それなら俺もそれなりに真面目にヤってやる」

 

「ただ、俺ァ生憎アンタみてェに都合のいい体じゃねェんでな…」

「アンタがコントロールできるんなら、俺のペースに合わせろ」
「?」


「俺がその気になるまでイクなっつってんだ」

 

「旦那…」

 

もう俺の頭ン中に、猿飛を愛したらなんていう想像は微塵も浮かんでこなかった。
当初の目的も忘れて、ひたすら勝負した。
イクかイカされるかの、ガキみてェな勝負。


俺は猿飛の装束に手をかけ、帯を解いていく。
腰の防具を外すと、いよいよ細い腰が現れた。
俺もまだまだチープな体だが、これには驚いた。

鎖帷子と袴をズラしてみれば、硬く締められた下帯さえ卑猥に持ち上がっていた。
それを乱暴に引っ張って緩めてみる。


「dreadful…」

 

想像を絶するその一物に、猿飛の童貞説は却下だ。
色白の肌に似つかわしくねェ、浅黒く雄々しい出で立ち。
小さくはねェ俺の手で掴んでも、やっと親指と中指が付くぐらいの立派な竿。
張り詰めた裏筋と生々しく浮き出た血管。
ズル剥けのカリを伝う、そりゃ濃厚な白濁。

これならどんな女子でも確実に仕込めるな…

鼻をつく雄の匂い。

こうやって見ると、凶器って言いたくなる気持ちもわかるな。
こんなモンぶち込まれる女子も大変だよなァ。

でも、慣れると気持ちいいんだろうか。
痛みや苦しみは薄れるんだろうか。
こんなブッテェ棒で腹ン中突きまくられてさ。

狭い肉壁擦られて、奥の奥まで抉られて…

 

 

立場上、俺にも男色の知識ぐらいはある。

ただ、マジで興味はねェ。
硬ェ男の体なんか抱きてェとも思わねェ。
汚ェケツにチンポ突き刺すなんざ、言語道断。
そりゃ、狭い穴に突っ込めばイケるだろうけど、その前に吐き気が襲ってきそうだ。

その逆だと、野郎にも女子になれる部分があるとかねェとか。
個人差はあるらしいが、かなりのモンらしいな。
でも、こんなバケモンみてェなのブッ込まれて、正気の沙汰とは思えねェよ。

 


どっちの立場でも真っ平ゴメンだ。

「え、ちょっ…旦那?!そこまでしなくていいって!!」

 

え?

 

「旦那っ!!」

 

 

 

ジュルリという粘った音でもって我に返った。


「もう!旦那、何てツラしてんだよ!!」

いけね…
ちょっと考え込みすぎちまったか。

俺は、何にも気付いてなかった。
自分がヨダレ垂らしながら猿飛の股間に見入ってたことも。
喉を鳴らしてフェラかましていたことも。
そりゃもう、恐る恐る舌を這わせてみた…なんて言い逃れはできねェ。
えづきそうなほど奥まで咥え込んでたモンだから参った。


「アンタにはもう降参だ…俺様の負けだよ」

「Ah?」
「ありがとう、感謝するよ、ホントに…ありがとうね、旦那」
「どういう意味だ」
「こんなことまでして俺様と恋人のフリして、助けようとしてくれたんじゃない…」
「・・・・・」
「もう死んでもいいやって諦めてたけど、何とか上手くやるよ」
「猿飛…」

「ほら、口拭いて」

 

 

 

 

「だ・・・・・・・ッッ・・・?!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黙れ…

俺のペースに合わせろっつっただろ。
Give upなんて許されると思ってんのか?

死ね、クソ猿が。

 

 

 

 

 

 


「ぃ、ってェ…」


猿飛に悪気はなかったと思う。
ただ純粋に感謝しただけだろう。
それはわかる。

でも、俺ァそんなモン求めてねェんだよ。
別にアンタに感謝されようなんて思ってねェ。
こんな手段しか選べなくて、恨まれてもいい。

別にアンタがどうなろうと知らねェけどな。

 

よくわからねェんだよ…

 

 

「んん、ッ、が…っっ?!」

「舐めろ…よく濡らせよ」


猿飛の口に乱暴に指を突き入れ、歯列や舌を撫でた。

意識を逸らしたら逃げられちまう。
猿飛からできるだけ余裕を取り去らねェと、俺だけが惨めな姿晒すことになる。

「は、ッ…旦那、何する気?!」
「答えは体で見つけろ…アンタじゃ一生かかっても稼ぎきれねェレベルの貸し、作ってやるからよ」
「だ、ァ…っ!」

猿飛の唾液で濡れた指を、そのまま下帯の中に忍ばせる。
それを凝視されても恥かしいんで、まだガチガチの猿飛を再び舐めしゃぶった。

指1本でも痛ェし気持ち悪ィ。
どうやったらこんなトコにこんなモン入るんだ?


口の中で猿飛が痙攣する。
イキそうってほどでもなさそうだが、下の玉袋がギュンギュン動いてて、確実に追い上げられてんなってわかる。

「ァ…旦那、っ…」

苦しそうに呻く猿飛の声に、ケツが指を食い締めた。
お世辞にも可愛い声とは言えねぇが、その官能の声に俺の中が反応した。
いつもは不思議なぐらい逆立ってる髪が、汗に濡れて額に降りてる。
どんな時だって余裕を湛える猿飛のツラが、こんなにも苦しそうに歪むなんてな。

めちゃくちゃ興奮するじゃねェかよ。

 

「なァ…猿飛…」
「なっ、何…ッ」
「程遠いのは承知だ、でも我慢しろ…目は塞いでてやる、声も極力噛む」
「ぇ、なっ、あ…何?」

 

「アンタの好きな、あの上杉の忍でも想像してな」

 


あァ…

この俺が、こんな惨めな真似…

 

 

 


それでも欲しい。

猿飛が欲しい。

 

 

 


ホント、何なんだこの感覚。


意味わからねェよ。

 

 

 

 

左手で猿飛の目を塞ぎ、右手で猿飛のチンポを誘う。
結構濡れて指も何本か入るようにはなったが、そのデカさに一瞬怯んだ。
でも、その先端がケツに触れたとき、言いようのねェ感情が湧き上がってきたんだ。


受け止めてやりてェ…って。

 


でもやっぱり猿飛と、敵の忍とこんなこと…

 

 


もう痛みでも何でもいい。

何もわからなくなっちまいてェ。

 

 

 

 

 

 

「竜の身体、抱かせてやるよ」