今思ってみれば、出逢いは最悪。

 

 

 

 

 

 


江戸に出てきてホント間もなかったあの日。

 

 

 

俺はあの時、何をしようとして外出したのか。
多分、長い髪を落としに行こうとしてたか、何かそのあたりだと思うんだが。
とにかく、一人だったってことは覚えてる。

 

田舎者の俺にとって、江戸の街はとんでもねェ場所だったからな。
 今歩いてる場所が、どういう場所だかなんて、いちいち考えてもいなかった。
まァ、わからなかった…ってのもあるけど。

 

 

 

わかってりゃ、絶対に立ち入らねェ場所だった。

 

 

 

 

 

 

 


「お兄ちゃん、ちょっと…そこの黒髪の…」
「?」

 

 

 

振り返ってみると、あからさまに場末な匂いのする女が俺を見ていた。
雰囲気からして、俺とどうこうなろうっていう気でもなさそうだが…
とにかく、俺を舐めるように見てやがる。

 

 


「なんだ…」

 

よく見ると、俺よりずっと年上。
それでいて妖艶…いや、ヤベェ雰囲気をまとってた。

 

「どこの子だい?見ない顔だねェ」

 

そりゃ、最近江戸に来たばっかりだからな。
この界隈に来たのだって、今日が初めてだ。

 

「どこの店の新入りなんだい?」
「は?」

 

何言ってんだ、この女。

 

 

 

 

 


「お!上玉仕入れたな…躾は?」

 

女と俺の頭上を、男の声が飛び越えた。
40…ぐらいの中年男。

 

「いや、ウチの子じゃないんだよねェ…どこの店の子か聞いてたとこさ」
「あ、そうだったかい…それならここの子にしちゃえば?」
「それもそうだねェ」

 

いや、俺は孤児でも何でもねェんだが…

 

 

 

「売れそうな顔してるじゃないの」

 

そう言って微笑んだ女の顔が、心底怖かった。

 

 

 

「ぅ、売るって…」
「そんな年まで前髪なんざ、意味するところはひとつだろ?」
「?」

 

「なァ?兄ちゃん…ココでは、この女の言うこと聞いた方がいいぜ?」

 

頭の中で、逃げろ逃げろと何かが叫ぶ。
力に任せたら絶対俺の方が強いに決まってるってのに、この女の前から一歩も動けねェ。

 

 


「アタシはねェ、ここいらの男娼を仕切ってんだよ」

「だっ…」

 

男娼だと?
ここら一帯そういう街なのか?

 


「ぉ、俺はそんなんじゃねェ!!」

 

やっとの思いで女の前から逃げだせた。
目を閉じて、ただひたすら走った。

 

何があってもココは通らねェようにしよう。
じゃねェと、野郎に掘られる。

 

 

冗談じゃねェ…

 

 

 

 

 

 

 

「はァ…疲れた…」

 

 

 

どれぐらい走ったかわからねェが、もう大丈夫だろ。

 

 

人気の多い大通りを避け、ちょっとした路地裏に身を潜め身を潜めて呼吸を整えた。
それにしても走ったな。
ちょっと休んでもいいかな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ガタッ

 

 

 

 

 


「?」

 


誰かいるのか?
こんな薄汚ェところに?

 

 


「ぉい…」

 

俺は物音がした方に近付いた。

 

積み上げられた段ボールの陰に、たしかに人の姿。
男…か?

 

「大丈夫か?」

 

 


「?!」

 

 

 

ちょうど俺ぐらいだろうか。
そいつは酷く怯えた目で俺を捕らえた。

 

 


その時のあの不思議な感覚。

 

 

金髪…いや、白金?
総悟よりもっと薄い金髪。
いかにもインテリ臭漂うメガネ。
汚れてもなお美しい、家柄を感じさせる着物。

 

そして、透き通る肌と瞳。

 

 

俺とは対照的で、でもどこか似たもの同士。
直感で感じる何か。

 

 


「…ぁ…」

 

その男も、自分に近付いたものが俺だとわかって、威嚇をといた。
ふと、瞳が柔らかくなる。

 

少し重たそうな瞼。
体調でも悪ィのか?

 


「お前、こんなトコで何やってんだ」
「…」
「逃げてきたのか?」

 

見れば、こいつも俺と同じ長髪を結い上げた前髪だ。
こいつこそ、本職じゃねェのか?
野郎のクセに何となく女の色香がしやがるし…

 

「ボクは…江戸に出てきたばかりで…」

 

 

 

 


なんだ。

 

「あァ、俺もだ…」
「この髪型のせいで、危うく犯されるところだった」
「ははっ」
「キミは?この街の人か?」
「いいや、お前と同じだ」
「その髪型じゃぁな」

 

まったくだ…と、俺は笑った。

 

そんな悪そうな輩にも見えなかったんで、俺はそいつと一緒に街を出ようとした。
立たせてやろうと手を差し伸べたが…

 

 

 


ふと拒まれた。

 

「ボクには構わなくていい…」
「?」

 

熱があるのか、多少荒い息をつきながらそいつは俺に言った。

 

「自分で帰れる…だから…」
「でもお前…体調悪そうだぞ?遠慮すんな」
「ぃ、いいってば…」

 

短く切り揃えられた前髪に手を差し込み、嫌な汗をぬぐって熱をみた。

 

「ん…」

 

熱は…ねェな。
どうしたんだ?
何か病持ちなのか?

 

「でもやっぱ一緒に…」

 

 

 

 

 

 


ふと目を合わせると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男の視線で俺は微動だにできなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「あんまり近付くな…ボクは薬を嗅がされてる」

 

 

 

言葉とは裏腹に、一瞬ひるんだ俺の肩を掴み、そのまま壁際に押さえ込んだ。

 

 

「ちょっ、テメ…っ!!!」

 

焦る俺に構わず、そいつは口づけ寄越してきやがった。
薬って、そういう類のかよ。

 

だるそうだったのも、女っぽい匂いがしたのも、全部そのせいか。

 

 

参ったな…

 

 


「申し訳ない…どんなことをしようとしてるか、わかっているよ…」
「ぇ、あ…ちょっと…」
「本当に申し訳ない…!」

 

 

 

とり憑かれたように俺を掻き抱く腕が、僅かに震えていたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


俺は人肌を知らされた。

 

 

 

 

もちろん初めて。

 

 

 

 

 

 

 

その男がその筋の奴かどうかなんてわからねェ。

 

ただ、俺は羊の数でも数えてるつもりだった。
いくら同情したからって、男に惚れるなんざあり得ねェ。
切ねェ目で見てきやがるから、ケツだけ貸してやるつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ…あ…ッ」

 


吐き気と痛みはほんの一瞬。
知ってか知らずか、俺の中の一点を攻めたてられた途端、ケツは性器に変わり果てた。
それからは、狭い道幅いっぱいに四肢を投げ出して…

 

 

 

 

「ぅ、ア…あぁ、ァ…!!」

 

アイツが突き進んでくるまま、身体を揺らすだけ。

 

男って…
マジになったら無茶すんだな。

 

 

 

「ァ…っ、凄…熱い」

 

気持ち良さそうに眉間にしわ寄せて、俺の中を掻き回す。
華奢なくせにチンポだけは立派なモンで、俺はもう滅茶苦茶。
腰がバラバラに砕けそうだ。

 

 

たまに掠める、感じるところが波打つ。

 

 

硬ェ肉棒を突き込まれるたび、嬌声と精液が迸り出た。
眩しい髪を、熱い汗水が伝って落ちる。

 


深い瞳が俺を捕らえ、奥まで犯しにかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 


「ぁ、嘘…どぅし…ょ…」


アイツの息が浅くなり、腰の動きもいっそう速くなったと気付いたとき。

 

 

 

 


もう俺は…
そこまでキちまってた。

 

 


「な、なァ…」
「ん…」

 

じわじわと襲う快感に、身体が震える。

 

「イキそ…ぉ…」

 

 

 

 


嘘だろ?

 

ケツ、チンポで掻き回されて感じるどころかイキそうだなんて。
初めてなんだぜ?
自慢じゃねェけど、コイツと絡んでから1度も前触られてねェ。
俺、素質あんのかな…

 

…って、いらねェし。

 

 

 

 

「ん…出して」

 

それまでの必至な面持ちとは違う、慈しむような表情でアイツが俺に微笑んだ。

 


突き上げられてくうちに、痺れるほど硬く勃っちまってた俺に、初めて男の指がかかる。
背筋を舐め上げられたような衝撃。

 

 

 

 

 

「ぁ、ア…っっ、イク、イクぅ…っ!!」

 

 


思わず女みてェな声上げちまうほど…

 

奥歯を噛み締め、アイツの背中を掻き乱してみても、気持ちよくて仕方がねェ。
男のチンポから腰を突き抜けて、強すぎる快感が脳天まで一気に迫る。

 

 

 

今にも襲い掛かってきそうな遂情の衝撃を待ちわびて、胎内が痙攣する。

 

 

 

「ぁ…っっ…!」

 


濡れた息に混ざる、乾いた喘ぎ声。
俺を抱きとめる腕がガクガクに震えてやがる。

 

なんだ…
コイツも、もうイキそうなんじゃねェか。

 

 

 


「出す…ょ…」

 

その言葉が無性に嬉しくて、俺は男に縋りついた。
そして、そいつは俺の理性を殺しにかかる。

 

 


目も眩むような激しい突き上げに、意識がだんだん白くなってきた。
男の腰が信じられねェ速さで、俺に打ちつけられる。

 

 

 

 

 

陶酔しきった俺の身体は、ただ熱くなって揺れる。

絶対に勝てねェとわかっていながら…

 

 

 

 

 

 

 

あァ…
やっぱりダメだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア、ぁ…っ、あァぁアアア…!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


男の身体が大きく震え、悲鳴を飲み込む音がした。

 

 

 

 

 

 


最後に食らった一撃で、堪えてた精液全部後ろから押し出されちまった。
腹ン中に注ぎ込まれた精液を感じるのと、どっちが早かったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめ…」

 

 

 

「あァ」
「中に、出しちゃった…」
「あァ」

 

 

 

 

とりあえず治まった体を着物に押し込め、人通りの少ない道を2人で抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「北斗一刀流?名門じゃねェか」

 

 

「あんまりよく知らないんだけどね」
「テメ、それここいらじゃ指折りの道場だぞ?」
「…そうなんだ」
「お前、エリートなんだな」

 

 

その男はどうやら、名門道場に推薦されて江戸に来たらしい。
なんか、頭も良さそうだしよ。
文武両道ってか?

 

「キミは?」

 

「ぇ?ぁ…あぁ…俺ァ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の大将を江戸1番の総大将にするのさ」

 


「??」

 

「そのうちお前の耳にも入るような一大集団になってみせる」
「そう…仲間が多いんだね」

 

ふと、男の顔が翳る。

 

「道場に飽きたらお前も来い…流派なんかねェけどな」
「田舎剣法かい?」

 

 

 

 

 

 

「いいや、近藤流だ…お前も必ず虜になるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぁ?
伊東よォ…
あながち嘘でもなかったろ?

 

 

お前が見ようとしなかっただけで…

 

 

あの時既に、俺もうお前の隣にいたんだよ。