あァ…
土方君…
気付かなかったよ。
「ァ?…何?」
「いや、別に…ボクが君を見てちゃいけないかい?」
「気色悪ィ奴」
まぁ、気に入られてるとは思ってないからね。
それに、キミにはそれぐらいの方が似合ってるよ。
ボクは…
キミって男前だし、この男所帯、男も女も両手両足に抱えるほどいると思ってた。
思ってた通り、結構な青年時代送ってたらしいじゃないか。
近藤さんが羨ましがってたよ。
「テメェも、そのクチか?」
「?」
「どうせ俺のこと、どうにかしてェんだろ」
そんなにキミ自身を悪く言うんじゃない。
ボクが気に入った人を、そんな風に言わないでほしいね。
「今夜行くわ」
それ以上、大声で嘆かないでくれ。
その細い瞳の奥から、響く悲鳴。
何も言わせてくれないんだね。
真選組副長。
そんな華々しい二枚目のキミが…
ボクの前で儚く散る花は、酷く甘い香りがした。
そうやって今まで誘い込んできたのかい?
そんなベタついた匂いで、ボクが騙されるとでも思ったか。
胸焼けがしそうだ。
「土方君…」
「悪ィな、遅くなっちまって」
「…いいや」
誰かの部屋にしけ込むなんて、キミにとっては日常茶飯事なのかもしれないな。
妻も娶らずに、キミなら縁談も少なくないだろう?
それに30前にもなって、なんだい、その性欲は。
単に気が多いだけなのか?
それとも、チヤホヤされる自分に酔ってるのか。
「テメェどっちだ」
「は?」
「は?じゃねェよ…野郎同士でシッポリいこうってんだ」
「シッポリ…って」
守れない情熱。
「テメェ、この期に及んでなんだ?」
空をきる感情。
ボクは、キミにそんなもの望んじゃいない。
嫌いな人間にムリヤリ身体こじ開けられて、何が楽しいんだ?
「ボク、キミと抱き合う気なんかないけど」
「!!!!!!!」
なんで、そんな悲しい目をする?
そういう行為自体が悲しくないかい?
「はは…っ、かからなかった奴ァお前だけだ」
「かからなかったって、そんなまた、人を試すようなことして」
「試してなんかいねェよ、見てて笑えるだけだ」
「・・・・・・・・」
「女より男が面白くてな、最近のマイブームよ」
土方君…
「いい年した野郎がよ?俺を女みてェに抱いて悦ぶんだぜ?」
胸の奥の甘い痛み。
そんなことを言わせたいんじゃない。
聞きたくもない。
「ボクにもそうしろと…?」
ボクが間違ってるのか?
どんどん寂しそうに歪む瞳。
高鳴る鼓動。
人を誘うコトに自信があるようだね?
そんなにボクを狂わせたいなら…
いっそめちゃくちゃにしてみろ。
理性が途切れるぐらい、ボクをどうにかすればいい。
「意外と…イイかもしれねェよ?」
「・・・・・・・・」
ムリしてるんじゃないよ。
涙を堪えるように睨まないでほしいね。
嫌な客を目の前にした、美しい遊女のようだ。
「ぁ…あぅ…」
ひとつ…
またひとつ…
剥き出しになっていく。
ただ獣が下半身を突き合わせているだけのような。
這い蹲るメスを後ろから押し上げるだけ。
愛し合うもの同士が抱き合うようになんて、間違えても思えない。
「ねェ…こっち向いてよ」
「ゃ、だよ…アホっ」
寝間着の浴衣を落とすこともなく、指を絡めることもない。
肌はほとんど見えてこないのに…
キミが剥き出しになっていくのがわかるよ。
「キミのそんな切羽詰ってる顔なんて、そう見れるモンじゃないからね」
「趣味、悪…ぞっ」
「ねェ…」
「や、めろっ…!!」
ムリヤリ掴んでひっくり返してみれば、驚くほど甘い表情。
土方君にもこんな顔ができるんだな。
本当に、こんな行為でそんなに蕩けてしまうのか。
ボクはてっきり、苦しみや痛みで、昼間の憂さを紛らせているのだと思っていたよ。
「見…んなっ…」
もし、キミが本当に人肌を求めているのなら…
悪くないな。
キミが言うとおりだ。
「ぁ、あァっ…ぃ、あっ!!!」
いい年した大人同士。
男同士。
キミとボク。
これ以上相性の悪い組み合わせってないよね。
「ねェ、今この瞬間ぐらい、ボクを見てくれてもいいんじゃない?」
「ゃ、だ…!!」
開き直って、愛する振りでもしたら気分も紛れるだろう?
どんな感情を抑え込んでるんだ?
男なのに、抱かれて快感を得られることへの羞恥か。
もっと求めそうになる自分への叱咤か。
それとも…
「テメ…なんかっ…」
「いいよ、ボクを嫌いで…」
本気で愛してもらおうなんて思ってない。
ボクの吹っ掛けた喧嘩に、そうやって真面目に応じてくれるだけで充分。
それは、ボクをちゃんと見てくれてる証拠。
ただ笑って撫でられるよりも、ずっと嬉しいよ。
「ゃ…いやだァ」
「ボクもキミが嫌いだよ」
だから、意地悪だろ?
こんなに優しくするなんて。
「惚れたくね…ェ」
キミの心がこんなに愛に傷付いていたなんて。
鬼の副長と呼ばれるその裏で、温もりに怯えてたなんて。
イヤだと言いながら、ボクを離さない腕。
縋るような瞳。
まったく、勘違いしそうになるよ。
「惚れた人間に愛されない恐怖…」
「!!!!」
「自分を守りたくなるよね」
「ボクにはわかるんだよ」
何人もの人と抱き合って、これまで土方君はどれだけ癒されただろう。
「惚れて、突き放される恐怖に怯えてるんだね」
それなのに、なんでこんなに怯えてる?
なんでこんなに寂しがる?
「伊東…っ」
今すぐにでもボクのものにしたいな。
優しさだけで抱きしめられたら。
もっと中へ踏み込んで、キミの全てを掻き乱してやるから。
キミの好きなようにしてあげる。
どこをどうして欲しいのか、素直に言ってよ。
悪いようにはしないから。
どうせ同情ぐらいにしか思ってもらえないだろ?
それならいっそ煩わしいほどの優しさをあげる。
どうしても吐き出せない言葉。
散っていったむせ返るような花は、弱い心を隠す香り。
たった一つの想いを秘めた、穢れなき魂。
晒すことを恐れたキミの、精一杯の強がり。
「土方君…」
キミに近付いてもいいかな。
もう、言ってしまおうか。
「ん…」
二言目には「切腹」のキミが…
なんて表情をするんだ。
やめておくよ。
その笑顔が焦げついてしまいそうだ。
言ったところで、素直に受け取ってくれそうにもないしね。
今すぐにはムリかな。
こんなキミとボクじゃあ…ね。
「ん、んぅ…」
色付いてやまないのは、胸を引き裂くような激情。
キミの身体が濡れるほど、面白いようにヒートアップしていくよ。
思いが募って、留めるのも面倒で。
溢れるまま零してしまおうかとも思うほど。
うわ言のようにさらりと言ってしまえば、聞き流してくれるかい?
寒気がするほどの激しい快感に酔って漏れた、ただの戯言だと思って。
いっそ本音が言えそうだ。
「イキそう?」
「ん、んっ…」
「そう…」
なんと可愛いこと。
必死で頷いてボクに縋りつく。
感じてる顔を見られたくないなんて言ったの誰?
思わず髪を撫でそうになった手を、慌てて引っ込めた。
「こっちだけでイケるんだ…慣れたモンだな」
これからはボク以外には触れさせるな。
「ホラ、こんなに中から溢れてくる…」
キミの中が気持ちよくて、我慢しきれないよ。
「快感が得られれば、好き嫌いは関係ナシか…この淫乱」
心まで手に入れたい。
無力な言葉ばかりが浮かんでは、頭の中を巡り巡って結局消えていく。
ボクの傍にいたらいい。
殺し合おうなんて言える相手、そういるもんじゃないよ。
特別だと思うんだけどな。
ねェ、そう感じるだろ?
「あァ…土方君、こんな深いトコが好きなの?」
「んぅ、っ…」
「苦しくないかい?」
「…ッ」
悔しそうだね。
「ボクにイカされるのが、そんなに癪?」
「ぅ、るせェ…っ」
キミが誘ったのに、あんまりじゃない?
それとも、思いの外ボクはよかった?
「目を見せて…」
せめて今だけはボクを信じて。
キミも知ってるだろ。
瞳は嘘をつかないって。
今ボクは、口では大嘘ついてるから。
言葉では伝えられない想いがある。
だから、キミの真実も見せて?
「せっかくセックスまでしてるんじゃない」
「ァ、あぁっ…ん、あッ」
「土方君…ッ」
「ぃと、ぁ…イク…」
相変わらず怯えた瞳。
何者も寄せ付けたがらない、弱い心。
キミの悲しみを拭うためなら悪にでも成り下がるのにな。
「さっさと、イカせろ…ッ」
「ん…」
何とでも言って。
大嫌いとでも、死ねとでも。
もう、ボクには何を言っても無駄だよ。
「キモいんだょ、テメェ…っ」
愛しさだけでその痛みが拭えるなら、この想い全て捧げるのに。
キミが救われるなら、今すぐ口に出して伝えていい。
やっぱりキミはいいよ。
もう、限界だ。
「ゃ、ぅあぁぁッ…あっ」
タガが外れたか。
自分でも驚くほど、腰がよく動いた。
土方君の声が跳ね上がるトコを、面白がって突きまくった。
強い衝撃に中が痙攣し、ボクの全てを搾り取る。
「すご…ボクも、出そ…」
「ぁ、はッ…ココ…こうやって」
「ん、くぅ…ッ」
卑猥にうねる身体。
イクところに当てようと、土方君が前後に腰を揺らしだす。
ただ突き上げるより、こう擦りつけてやった方が気持ちイイのか?
「あ、あッ…」
リズムを覚えて突いてやると、ホントに可愛い顔をしてくれる。
ドスの効いた声をギリギリまで吊り上げて…
切なく歪む性悪眉毛…
赤く蕩けた味音痴の舌…
キレイな二重の三白眼が、涙を溜めてボクを刺す。
「ィ、ク…ぅ…」
ボクを掴む手に、物凄い力が込められた。
腕が千切れそうだよ。
白む視界。
上がる息。
身体の芯がゾクゾクと震え上がる。
「土方君、もぅ…イク…」
「ん…ッ?!」
堪えられずに抱きしめた。
気持ちが膨れ上がって、もうどうしようもなかった。
身体だけでももっと傍に。
首筋に噛み付いて、零れそうな嬌声を飲み込む。
「伊東、伊東ッッ…!!」
背中に回る腕。
鋭く走る痛み。
そんなに気持ちイイ?
もうダメだと思った瞬間…
中の痙攣がひっきりなしに起こり始めた。
「ぁあァァああァあアアアっっっ!!!!」
ボクの本当の気持ちも、一緒に土方君の中に注ぎ込んでやれたら。
落ちるように眠った土方君。
肩を竦めて、静かに寝息を立てている。
「土方君…」
艶やかな黒髪を撫で、タバコ臭い唇に口付けた。
本当は、ずっとこうしたかったんだよ?
でも、キミのことだ。
意外とヤワなその心焦がして、硬い鎧被るんだろ。
傷つきたくないと、ひたすら守るんだろ。
これ以上近づけないな。
こんな今のキミとボクじゃあ…ね。